カニのハサミはなぜ左右で大きさが違う?役割・利き手・再生の仕組み
カニのハサミが左右で大きさや形が違う理由を、貝を割るカラッパ、求愛に使うシオマネキなどの例で解説。利き手の研究、自切と再生の仕組み、食卓でのカニ爪の取り出し方と安全な扱い方も紹介します。
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ハサミの左右差は珍しくない
カニのハサミ(鋏脚)をよく見ると、左右で大きさや形が違う個体がいます。このように左右のハサミの形がそろわないことを、生き物の研究では「左右非相称性」などと呼びます。日本生態学会で発表された研究の要旨でも、カニ類ではハサミの大きさや形が左右で異なる現象がよく見られ、それぞれの種の行動や生態と深く関係していると説明されています。
ただし、すべてのカニの左右差がはっきりしているわけではありません。ズワイガニや毛ガニのように左右の差がそれほど目立たない種類もあれば、シオマネキのように片方だけが極端に大きくなる種類もあります。同じ種でも、成長の段階や性別、過去にハサミを失ったかどうかで形が変わります。
役割の分担:割る・切る・つかむ
左右のハサミの形が違う種類では、それぞれのハサミが別の役割を担っていることが多いと考えられています。
| ハサミの形 | 主な役割の例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 太く頑丈なハサミ | 貝殻などを割る、はさみ潰す | 内側に臼のような突起がある種類も |
| 細く鋭いハサミ | 身を切る、つまむ、口へ運ぶ | 刃の縁が細かく、動きがすばやい |
| 極端に大きいハサミ | 求愛の合図、オス同士の争い | 食べる用途にはあまり使わない |
名古屋大学などの研究グループは、90種を超える甲殻類の標本を使って、ハサミの形と働きの関係を調べています。その結果、貝殻を割るのに使われるハサミは、力を出しやすく、はさんだときに関節がはずれにくい形になっていることが分かったと発表しています。ハサミの指の長さや幅、高さの違いが、その働きの違いにつながっているというわけです。
貝を割るカラッパのハサミ
左右差の分かりやすい例が、カラッパの仲間です。京都大学白浜水族館の解説によると、カラッパは貝殻を割って中身を食べるカニで、右側のハサミの根元にはほかのカニにはない大きな突起があります。この突起を使って、缶切りと同じような要領で貝殻を割り、左側のハサミは貝をつかんだり回したりするのに使うと紹介されています。
このように、右と左で「割る道具」と「持つ道具」を分けている姿は、人が道具を使い分けるのに少し似ています。貝のように硬い殻を持つえさを食べる種類ほど、頑丈なハサミが発達しやすいと考えられています。
求愛に使うシオマネキのハサミ
左右差がいちばん極端なのが、干潟にすむシオマネキの仲間です。オスは片方のハサミだけが体に比べてとても大きくなり、もう片方は小さいままです。大きいハサミは、えさを食べるためではなく、メスへの求愛やオス同士の争いに使われます。
潮が引いた干潟で、オスが大きなハサミを上下に振る様子は「ウェービング」と呼ばれます。その動きが潮を招いているように見えることが、シオマネキという名前の由来とされています。メスは小さい方のハサミだけを使ってえさを食べるので、左右の大きさの差はオスほど大きくありません。
どちらのハサミが大きくなるか(右か左か)は種類によって傾向があり、個体ごとに違う種類もあります。
カニにも利き手はある?
「カニにも右利き・左利きがあるのか」という疑問は、研究者の関心も集めてきました。日本生態学会で発表された研究では、左右のハサミの違いが、えさの取り方やケンカにどう影響するかが調べられています。
一般に、大きい方のハサミが右か左かの割合は種類によって異なります。ある種では右側が大きい個体が多い、別の種では左右ほぼ半々、といった違いがあり、「カニは右利きが多い」と一言でまとめることはできません。身近な例では、学校の観察でサワガニの利き手を数えた記録なども紹介されています。身近なカニを観察するときは、何匹かの左右のハサミを比べてみると、その種の傾向が見えてくるかもしれません。
ハサミを自分で切り離す「自切」と再生
カニは、敵にハサミや脚をつかまれたときなどに、付け根の決まった場所から自分で切り離して逃げることがあります。これを「自切(じせつ)」と呼びます。切り離す場所には、体液が流れ出るのを抑える仕組みがあると考えられています。
失ったハサミや脚は、そのままではありません。次の脱皮までに体の内側で新しいハサミの元がつくられ、脱皮のときに小さなハサミとして現れます。その後、脱皮を重ねるごとに大きくなっていきます。
左右差のある種類では、大きい方のハサミを失ったとき、再生の過程で左右の大きさが入れ替わる例も知られています。市場や店頭で、片方のハサミや脚だけが小さいカニを見かけたら、過去にハサミを失って再生の途中だった個体かもしれません。脱皮の仕組みは脱皮したカニはどう変わる?で詳しく紹介しています。
食卓でのカニ爪の取り出し方
食べるカニの「爪(ハサミ)」には、身がぎっしり詰まっていて人気があります。ハサミの殻は脚より厚く硬いので、取り出し方にコツがあります。
- ハサミを関節で切り離す
- キッチンばさみで殻の側面に切り込みを入れる。硬い場合は、殻割り用の道具で軽くひびを入れる
- 動く方の指(可動指)をゆっくり動かして抜くと、中の軟骨のような板と一緒に身が外れることがある
- 殻のかけらが身に混ざっていないか確認してから食べる
殻を強くたたき割ると、細かい破片が身に入りやすくなります。子どもと一緒に食べるときは、大人が先に身を取り出して渡すと安全です。
爪の部分だけを集めた「カニ爪」の商品もあります。加熱済みか、生(加熱用)かを表示で確認し、生の場合は中心まで十分に火を通します。
カニ爪の商品を選ぶとき
スーパーや通販では、ハサミの部分だけを集めた「カニ爪」や、殻の一部を外して身を出した「爪肉」「むき爪」などの商品が売られています。鍋やフライ、揚げ物に使いやすく、手軽にカニを楽しめる商品です。選ぶときは次の点を確認します。
| 確認する項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 種類 | ズワイガニ、紅ズワイガニなど、どのカニの爪か |
| 加熱の有無 | ボイル済みか、生(加熱用)か |
| 形 | 殻付きか、殻を一部むいたものか |
| 内容量 | 本数か重さか、氷の膜を含むか |
| 衣付きか | フライ用の衣が付いた加工品かどうか |
衣の付いたカニ爪フライなどの加工品は、原材料欄にカニ以外の材料(すり身など)が含まれていることもあります。カニの身そのものを味わいたいのか、手軽なおかずとして使いたいのかで選び分けるとよいでしょう。冷凍品は表示に従って解凍し、生の場合は中まで十分に加熱します。
爪は1杯のカニから2本しか取れないうえ、身が詰まって食べ応えがあるため、脚に比べて人気があります。ハサミの動く方の指の中には、軟骨のような板状のもの(腱)が入っているので、食べるときは取り除いてください。
生きたカニのハサミには注意
活ガニや生きたワタリガニを扱うときは、ハサミにはさまれないように注意が必要です。種類によっては力が強く、指をはさまれるとけがをすることがあります。
- 甲羅の後ろ側を持ち、ハサミの届かない位置で扱う
- 輪ゴムやひもでハサミが縛られている場合は、外さずに調理する
- 軍手や厚手の手袋を使う
はさまれてしまったときは、無理に引っ張るとかえって食い込むことがあります。慌てずにカニを下ろし、ハサミの力がゆるむのを待ってから外します。けががひどい場合は医療機関に相談してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. ズワイガニのハサミも左右で違いますか?
A. ズワイガニは、シオマネキやカラッパほどはっきりした左右差はありません。個体によってわずかに大きさが違うことはありますが、見た目で大きく異なるほどではないのが一般的です。
Q2. カニ爪の殻に付いた黒いつぶつぶは何ですか?
A. カニビルという生き物の卵とされるもので、殻の表面に産み付けられているだけです。身を食べるものではないので、殻を外して身を食べれば問題ありません。
Q3. 再生したハサミは食べられますか?
A. 食べられます。ただ、再生途中のハサミは小さく、身の量も少なめです。姿で買ったカニの片方のハサミが小さくても、傷んでいるわけではありません。
関連ページ
参考資料
- 日本生態学会 大会講演要旨「カニの右利き左利き:ハサミの左右非相称性が採餌とケンカに及ぼす影響」
- 名古屋大学 プレスリリース「甲殻類のハサミのカタチと機能」(PDF)
- 京都大学白浜水族館「缶切り?カラッパのハサミ」(PDF)



