上海蟹とモクズガニの違い|旬・味・食べ方と寄生虫の注意点
上海蟹(チュウゴクモクズガニ)と日本のモクズガニ(ツガニ・ズガニ)の違いを、分類・生態・旬・味から比較。「九雌十雄」の意味、ツガニ汁などの郷土料理、肺吸虫を防ぐ加熱の注意、外来生物法の規制も解説します。
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上海蟹とモクズガニは同じ属の別種

秋から冬に中華料理店で話題になる「上海蟹」は、標準和名をチュウゴクモクズガニ(学名 Eriocheir sinensis)というカニです。一方、日本の川に広くすむのがモクズガニ(Eriocheir japonica)で、地域によって「ツガニ」「ズガニ」「ガンチ」「川ガニ」などとも呼ばれます。どちらもモクズガニ科モクズガニ属に入る近い仲間ですが、別の種です。
両種ともハサミに褐色の毛がふさふさと生えていて、水中で藻くずが絡んでいるように見えることが「モクズガニ」の名前の由来とされています。甲羅の縁のトゲの形などに違いはあるものの、見た目はよく似ていて、一般の人が一目で見分けるのは難しいでしょう。
| 比べる点 | 上海蟹(チュウゴクモクズガニ) | モクズガニ |
|---|---|---|
| 学名 | Eriocheir sinensis | Eriocheir japonica |
| 主な分布 | 中国の河川・湖。欧米などに外来種として侵入 | 日本各地の川、沿岸域 |
| 日本での扱い | 特定外来生物。生きた個体の輸入・飼育は規制 | 在来種。地域によって漁獲・販売がある |
| 主な食べ方 | 蒸し蟹、紹興酒漬けなど | ツガニ汁、塩茹で、味噌汁など |
| 旬の目安 | 秋〜初冬 | 秋(川を下る時期) |
海と川を行き来する暮らし
モクズガニの仲間は、海と川を行き来して一生を送ります。海で生まれた幼生は沿岸で育ち、小さなカニになると川をさかのぼります。川の中流や上流で数年かけて成長し、成熟すると、秋に産卵のため川を下って河口や海へ向かいます。
この川を下る時期は、体に栄養をたくわえ、卵巣や精巣が発達している時期でもあります。そのため、上海蟹もモクズガニも、秋が食べ頃とされることが多いのです。日本各地の川では、秋に川を下るモクズガニを獲る伝統的な漁が行われてきました。
ズワイガニやタラバガニのように海の深いところにすむカニとは、すむ場所も食べ方の注意点も大きく異なります。
「九雌十雄」と上海蟹の食べ頃
上海蟹の食べ頃を表す言葉に「九雌十雄(きゅうしじゅうゆう)」があります。旧暦の9月(今の10月ごろ)はメス、旧暦の10月(今の11月ごろ)はオスがおいしい、という意味です。
メスの甲羅の中には、オレンジ色の卵巣(中国語で「蟹黄」)が発達し、蒸すとねっとりとした濃いうまみが出ます。オスは、白くとろりとした精巣など(「蟹膏」と呼ばれる部分)が発達し、粘りのある独特の口当たりが好まれます。どちらを好むかは人によって分かれ、食べ比べを楽しむ人もいます。
代表的な食べ方は、丸ごと蒸した「清蒸蟹」を、黒酢としょうがのたれで食べるものです。しょうがや紹興酒と合わせるのは、カニは体を冷やす食材とする中国の食養生の考え方によるとされています。
店で上海蟹を食べるときの楽しみ方
上海蟹は、中華料理店で秋から初冬にかけて季節限定のメニューとして出されることが多いカニです。姿蒸しで出された場合は、次のような順番で食べ進めると、それぞれの部位を味わいやすくなります。
- お腹側の三角形のふんどしを外し、甲羅を持ち上げて外す
- 甲羅の内側の卵巣(メス)や精巣など(オス)を、付属のスプーンで味わう
- 胴の両脇にあるエラや、口の周りの硬い部分は食べない
- 胴を半分に割り、中の身を取り出す
- 細い脚は関節で折り、身を押し出すようにして食べる
店によっては、身をほぐして卵巣や精巣と合わせた「蟹粉」を使った料理や、小籠包、あんかけなどを出すこともあります。姿蒸しより手軽に上海蟹の味を楽しめる料理です。大きさやオス・メスで値段が変わることも多いので、注文時に確認しておきましょう。
日本のモクズガニと郷土料理
日本のモクズガニも、秋の味覚として各地で親しまれてきました。高知県の四万十川をはじめ、四国や九州、中部地方など、川の恵みとしてモクズガニを食べる地域は少なくありません。
代表的な料理が、「ツガニ汁」「ガン汁」などと呼ばれる汁物です。生きたモクズガニを殻ごとすりつぶし、水を加えてこして殻を取り除き、その汁を味噌やしょうゆで味付けしながらゆっくり加熱します。加熱するとカニのたんぱく質が固まり、ふわふわとした塊となって浮かんできます。カニのうまみを丸ごと汁に移す、ほかではあまり見られない調理法です。
宮崎県北郷町の「かに巻き汁」はその一例で、農林水産省の「うちの郷土料理」では、地元で「山太郎ガニ」と呼ばれるモクズガニを使い、旬の9〜10月ごろに食べられていると紹介されています。塩茹でや味噌汁のほか、炊き込みご飯にする地域もあります。川や地域によって呼び名も料理の名前も異なるので、旅先で見かけたら地元の人に食べ方を聞いてみるのも楽しみの一つです。
どの料理も、共通するのは「中心まで十分に火を通す」ことです。川のカニを扱うときに欠かせない理由は、次の節で説明します。
生食を避け、中心まで加熱する
モクズガニなどの淡水ガニは肺吸虫の宿主となることがあり、生や加熱不足の状態で食べると感染するおそれがあります。国立健康危機管理研究機構は、国内でモクズガニの酒漬け料理が原因となった肺吸虫症の集団発生を報告しています。酒や調味料に漬けるだけでは加熱の代わりになりません。生食や酒漬けだけの調理を避け、中心まで十分に加熱してください。生のカニに触れた手や器具は、ほかの食品に触れる前に洗います。
上海蟹は特定外来生物
チュウゴクモクズガニは、外来生物法にもとづく「特定外来生物」に指定されています。ヨーロッパや北米などに船のバラスト水などを通じて侵入し、在来の生き物への影響や、土手に巣穴を掘ることによる被害が問題になっている種です。日本でも、在来のモクズガニとの競合や交雑が心配されています。
そのため、日本では生きたチュウゴクモクズガニを許可なく輸入、飼育、運搬、野外に放すことが禁止されています。中華料理店などで出される生きた上海蟹は、許可を受けた事業者が決められた管理のもとで扱っているものです。旅行先から個人で生きたまま持ち帰ることはできません。
一般の人にとっては、「お店で食べるもの」と考えておくのがよいでしょう。持ち帰りを勧められても、生きた状態のものは受け取らないようにします。
モクズガニを買う・もらうとき
モクズガニは地域の直売所や川漁師から手に入ることがあります。買ったりもらったりしたときは、次の点を確認します。
- 生きているか、すでに茹でてあるか
- どこの川で獲れたものか
- 調理するまでの保管方法(生きたまま保管するなら逃げ出さないように)
- すりつぶすなら、調理器具と作業場所を用意できるか
川や地域によっては、モクズガニの漁に漁業権や遊漁のルールがあります。自分で獲る場合は、その川の漁協や自治体の決まりを確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 上海蟹と日本のモクズガニはどちらがおいしいですか?
A. 別の種で、料理の仕方も違うため、単純には比べられません。上海蟹は蒸し蟹でメスの卵巣やオスの精巣を楽しむ食べ方が中心、モクズガニはツガニ汁など殻ごと活用する料理が多いのが特徴です。
Q2. 日本の川にも上海蟹はいますか?
A. 日本でも確認例が報告されており、特定外来生物として侵入や定着を防ぐ対策がとられています。見慣れないモクズガニの仲間を見つけても、生きたまま持ち帰ったり、別の場所に放したりしないでください。


